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キャッシュフロー計算書の作り方

金融用語集   10,760 Views
 

事業活動を継続していく中で、重要なポイントのひとつに「現金=キャッシュの流れを把握する」という点があります。現金が不足してしまうと事業を継続することはできません。

場合によっては「利益は上がっているのに手元資金が不足して事業が成り立たなくなる」という、いわゆる「黒字倒産」という事態も招く危険があります。

そこで重要となる書類が「キャッシュフロー計算書」です。しかしその重要性は分かっていても、どのように作成すればいいのかと悩まれる経営者も多いのではないでしょうか。

実はキャッシュフロー計算書の作成は、それほど難しいことではありません。一定の基礎知識があれば十分作成ができるようになります。

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キャッシュフロー計算書とは?

そもそも「キャッシュフロー計算書」とはどのような書類なのでしょうか。キャッシュフロー計算書は決算書類のひとつで、「財務三表」の一つです。

財務三表には他に「貸借対照表(B/S)」「損益計算書(P/L)」があります。決算書類の中でも特に重要とされているのが「財務三表」です。

キャッシュフロー計算書は、いわば「会社の家計簿」のようなものです。「現金=キャッシュ」がどれだけあり、どのように増減しているのかを示す書類です。

企業の「利益の増減」と「手元現金の増減」は必ずしも一致するものではありません。日本の商取引は「掛け取引」は一般的です。

商品やサービスを売り上げても、顧客から売上代金を回収するまでにはタイムラグが生じます。また商品やサービスを提供するための、仕入資金の支払いが先に必要になってきます。

そのため手元の現金がどれくらいあり、今後どれくらい必要なのかを正確に把握しておくことが重要なのです。手元現金が不足してしまうと、資金繰りが悪化し、最悪は「黒字倒産」という最悪の事態にもなりかねません。

企業の経営状態の中でも、特に現金の流れを把握するためにもキャッシュフロー計算書の作成は重要なのです。

キャッシュフロー計算書の作成は、法律上は上場企業が作成を義務付けられており、すべての会社が作成しなければいけないわけではありません。しかしその重要性を考えると、事業を営む上では、やはり作成していくことを強く推進します。

キャッシュフロー計算書の3項目

キャッシュフロー計算書は、次の3つの項目から成り立っています。

①営業活動によるキャッシュフロー

営業活動によるキャッシュフロー 金額
税引前当期利益 〇〇
減価償却費 〇〇
貸倒引当金の増減額 〇〇
受取利息及び受取配当金 〇〇
支払利息 〇〇
棚卸資産の増減額 〇〇
仕入債務の増減額 〇〇
その他資産の増減額 〇〇
その他負債の増減額 〇〇
小計 〇〇
利息及び配当金の受取額 〇〇
利息の支払額 〇〇
法人税等支払額 〇〇
営業活動によるキャッシュフロー 〇〇

営業活動によるキャッシュフローは、本業による現金の増減を示す項目です。つまり「本業でどれだけ現金を稼いだ」かを示しています。

この項目の合計がプラスであれば、本業が順調である証拠です。逆にマイナスであれば本業で現金は稼いでいないことを示しています。

営業活動によるキャッシュフローがマイナスの状態が続くと、損益計算書で黒字であっても危険な状態であると判断できます。

「直接法」と「間接法」

営業活動によるキャッシュフローの計算方法には「直接法」「間接法」の2つがあります。

直接法」とは、営業活動に関するキャッシュフローを「総額」でとらえる方法です。主要取引(仕入、経費支払い、給与支払い)ごとに総額を示す方法で、それぞれの取引による現金の流れを詳細に把握することができます。
一方、「間接法」とは、キャッシュの動きに関する部分だけを計算する方法です。損益計算書の数字を基本ベースに作成していきます。

企業の経営実態を個別取引に応じて詳細に示すことができるのは「直接法」ですが、膨大な手間が発生するため、多くの企業は「間接法」を利用しています。

②投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフロー
有形固定資産の取得による支出 〇〇
投資有価証券の取得による支出 〇〇
貸付金の増加による支出 〇〇
投資活動によるキャッシュフロー 〇〇

投資活動におけるキャッシュフローは、その名の通り「投資活動」、固定資産・株・債権などを取得したり売却したりした際の現金の増減を示しています。「投資目的で使ったお金の流れ」を示しており、言い換えれば「将来のためにどれだけお金を使ったか」を示しています。

営業活動のために、その事業規模に応じて一定の固定資産への投資が必要です。優良企業や成長企業(つまり、設備投資ができる余力がある企業)はマイナスになっているケースが多いです。プラスの場合は、土地や建物、株式を売却して現金が増えたことがことが分かります。

③財務活動のよるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフロー
短期借入金の純増額 ○○
長期借入金による収入 ○○
長期借入金の返済による支出 ○○
財務活動によるキャッシュフロー ○○

財務活動によるキャッシュフローは、「借りたお金や返済したお金の増減」を示す項目です。

金融機関などから借入金や社債で資金調達を行うとプラスになります。逆に借入金を返済したり株主への配当金を支払った先にマイナスになります。

優良企業の場合はマイナスである場合が多いですが。積極的に成長を目指すために借り入れが増え、プラスとなる成長企業もあります。

間接法でのキャッシュフロー計算書の作り方

ではキャッシュフロー計算書は、どのように作成していけばいいのでしょうか。ここでは多くの企業で利用されている「間接法」での作成方法を紹介します。

前期末 当期末 増減額
現金預金 100 200 100
売掛金 200 400 200
棚卸資産 400 200 ▲200
土地 600 1,000 400
建物(取得原価) 800 1,000 200
建物(償却累計) ▲200 ▲300 ▲100
買掛金 100 200 100
借入金 0 300 300
資本金 1,000 1,000 0
税引前当期純利益 200 300 100

まずは決算書類の内、「賃借対照表(前期・当期)」、損益計算書(当期)を準備します。また、固定資産や有価証券の取引や新株発行に関する取引を行っているのであれば、それらの金額が分かる書類も準備します。

キャッシュフロー計算書は、これらの書類から該当する該当する項目を抜き出す、もしくは項目によっては増減分を記載することで簡単に作成できます。

プラス・マイナスを行う項目は、以下のとおりです。そのまま転記する項目と、増減額を記載する項目を間違えないように注意しましょう。

①営業キャッシュフロー

間接法では、損益計算書で算出した「税引前当期純利益」から項目を加減してキャッシュフローを計算します。

プラスする項目

  • 減価償却費
  • 貸倒引当金の増加額
  • 棚卸資産の減少額
  • 売上債権の減少額
  • 仕入債務の増加額

マイナスする項目

  • 貸倒引当金の減少額
  • 棚卸資産の増加額
  • 売上債権の増加額
  • 仕入債務の減少額
  • 法人税等の支払額

②投資キャッシュフロー

プラスする項目

  • 固定資産の減少額
  • 有価証券の減少額
  • 固定資産の売却損
  • 有価証券の売却損

マイナスする項目

  • 固定資産の増加額
  • 有価証券の増加額
  • 固定資産の売却益
  • 有価証券の売却益

③財務キャッシュフロー

プラスする項目

  • 短期借入金の増加額
  • 長期借入金の増加額
  • 株式発行の収入
  • 利子利息の受取額

マイナスする項目

  • 短期借入金の返済支出
  • 長期借入金の返済支出
  • 自社株式の購入
  • 配当金の支払額
  • 利子利息の支払額

キャッシュフロー計算書の作成の具体例

では簡単にキャッシュフロー計算書の作成例を見てみましょう。ある企業の前期末と当期末の貸借対照表は以下の通りです。(単位は万円、ここでは損益計算書の分析は省いています)

営業活動によるキャッシュフロー
税引前当期純利益 100
減価償却費 100
売掛金の増減 ▲100
棚卸資産の増減 200
買掛金の増減 100
小計 400
投資活動によるキャッシュフロー
固定資産の増加 ▲600
小計 ▲600
財務活動によるキャッシュフロー
借入金の増加 300
小計 300
キャッシュフロー増減額 100

表の数字の増減額などをキャッシュフロー計算書に埋め込んでいきます。

①税引前当期純利益(100)を転記
②減価償却費の増加額(100)はキャッシュフローのプラスとなります。
③売上債権の増加額(100)はキャッシュフローのマイナスとなります。
④棚卸資産の減少額(200)はキャッシュフローのプラスとなります。
⑤仕入債務の増加額(100)はキャッシュフローのプラスとなります。
⑥固定資産の増加額(600)はキャッシュフローのマイナスとなります。
⑦借入金の増加額(300)はキャッシュフローのプラスとなります。

以上より、この企業はキャッシュフローのマイナス(主に土地・建物の取得によるマイナス)を借入金(300)で補ったことで、最終のキャッシュフローがプラス(100)となったことが分かります。

まとめ

キャッシュフロー計算書の重要性を理解していても、専門知識が難しく、なかなか作成ができないと考える事業主も多いのではないでしょうか。出入りの会計士などに相談して、まずは営業・投資・財務の各分類の数値を示す意味を理解していきましょう。

その上で、自ら作成してみることで、自社の問題点も把握できるはずです。「自分は会計に疎いから」と遠ざかるのではなく、積極的に動くようにしましょう。

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ライター紹介 ライター一覧

若松 貴英

若松 貴英

保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士(中小企業主資産相談業務)・AFP(日本FP協会認定)/金融業務検定(法務上級)/銀行業務検定(法務2級・財務3級・税務3級)など。銀行勤務時は融資のスペシャリスト」(悪く言えば「融資しか知らない」)として勤務していました。そのため「借入」に対しる知識や経験には自信があります。