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黒字倒産とは?わかりやすく説明します。

金融用語集   20,929 Views

企業の最大の目的は「利益」を追求することです。しかし様々な事情から利益が獲得できない、つまり「赤字=損失」を計上せざるを得なくなることもあります。

多くの方は「赤字が続くと倒産する」と考えるかもしれません。ところが中には赤字でないのに「倒産」の状況に陥るケースも少なくないのです。いわゆる「黒字倒産」の状況です。

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そもそも「倒産」とは?

一般的に用いられる「倒産」という言葉ですが、意外なことに「倒産」は正式な法律用語ではありません。株式会社東京商工リサーチでは、「倒産」を次のように定義しています。

「倒産」とは、企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になった状態を指す。「法的倒産」と「私的倒産」の2つに大別され、「法的倒産」では再建型の「会社更生法」と「民事再生法」、清算型の「破産」と「特別清算」に4分類される。

「倒産」とは、企業が経済的に行き詰まり支払能力を失い、その結果、事業の継続が不可能になった状況を指しています。先の4分類とも、倒産の状況に陥ると、もはや雇用の維持が不可能になり、従業員の生活だけでなく、その後の人生にも大きな影響を与えることになります。

黒字倒産とは?

倒産は企業が「赤字」の状態が続くことで陥る状況です。ただしすべての倒産企業が赤字を続けている状態とは限りません。利益を計上して黒字の状態であるのにも関わらず、倒産してしまう企業も存在しています。これが「黒字倒産」です。

黒字倒産とは「利益は計上されているのに運転資金や手元に残っている資金が尽きてしまい倒産してしまう状況」です。つまり、「キャッシュフロー」、いわば手元の「現金」が尽きてしまう状況です。

「勘定合って銭足らず」という言葉を聞いたことはありませんか?

帳簿上は利益が出ている(つまり、勘定は合っている)のに、手元には資金が残っていない(つまり、銭足らず)という言葉です。まさに黒字倒産を絶妙に表現した言葉といえるでしょう。

なぜ黒字倒産が起こるのか?

黒字倒産という事態はなぜ起こるのでしょう。これには会計上の問題ではなく、実際の現金の流れが関係しています。

日本の商取引決済は、いわゆる「掛取引」が主流です。売上・仕入とも通常は1ヶ月~3ヶ月後の決済となります。

その間、売上・仕入が利益・支出として会計上に計上されても、実際の現金が入金・支出するわけではありません。この会計上のずれと現金の流れが黒字倒産を生み出してしまいます。

少し極端ですが、具体的な例を挙げて説明しましょう。A社の手許現金は100万円だとします。A社の売上先B社と仕入先C社の取引条件は次の通りとします。

  • B社の売上:2ヶ月後回収
  • C社の支払い:翌月支払

1月の取引

  • B社への売上:300万円
  • C社への支払い:200万円

1月の売上損益は300万円-200万円=100万円になります。ただし売上代金の回収は2ヶ月後ですので、1月には現金の入金はありません。ただし仕入代金も翌月支払いですので、支払う必要はありません。つまりこの取引では現金の残高は変わりません。

1月損益計算書 1月現金収支
売上高 300万円 1月1日残高 100万円
売上原価 200万円 収入 0万円
純利益 100万円 支出 0万円
1月末現金残高 100万円

2月の取引

  • B社への売上:300万円
  • C社への支払い:200万円

2月も1月同様の取引を行ったとします。2月の売上損益は1月同様100万円で、通算200万円の利益となります。ただし300万円の売上回収は2ヶ月後、1月分の売上回収も3月ですので、この取引でも現金の入金はありません。

一方、2月には1月分の仕入代金の支払い200万円を行う必要があります。つまり現金の入金が無いのに支払いだけを行う必要があります。これにより手元現金は100万円不足してしまいます。

2月損益 2月現金収支
売上高 300万円 1月1日残高 100万円
売上原価 200万円 収入 0万円
純利益 100万円 支出 200万円
通算純利益 200万円 1月末現金残高 ▲100万円

この現金100万円の不足を、少なくとも3月に1月分の売上300万円が入金になるまでに、他の取引、その他で補うことができなければ、企業は倒産してしまいます。これが「黒字倒産」です。

会計上は通算200万円の利益を計上しているのに、A社は倒産してしまうのです。

黒字倒産を起こさないための2つのポイント

利益が計上されているのに会社が倒産してしまう黒字倒産。このような悲しい状況を起こさないために、どのようなことに注意すべきでしょうか。主なポイントは次の2点です。

①損益計算書の「収支」に注意する

企業の利益や損失に関する情報が記載される「損益計算書」。ただし「損益計算書」の利益や損失は、実際の現金の収支とは必ずしも一致しているわけではありません。経営者としてはどうしても利益面に目が行きがちですが、実際の現金の流れである「収支」を正確に管理することが重要です。

現金の収支のことを「キャッシュフロー」といいます。会計上の収支の情報は「キャッシュフロー計算書」に記載されます。

キャッシュフローが赤字になっている状態、つまりキャッシュフローが赤字になっているときに「黒字倒産」の発生の危険が迫っています。

②貸借対照表での「自己資本比率」に注意する

企業の財政状態を記載している「貸借対照表」。「貸借対照表」では倒産の度合いを示す数字を測ることができます。特に「自己資本比率」に注意することで、黒字倒産を防ぐことができます。

自己資本比率は、純資産÷(純資産+負債)で計算されます。株主からの出資を純資産として、金融機関などからの借入を負債として計上します。

一般的に企業は、株主からの出資と金融機関からの借入で資金を調達していますが、この借入が多いほど倒産する確率が高くなります。なぜなら、借入が多いと返済ができなくなった時に、倒産となってしまうためです。

つまり、負債が少なく自己資本比率が高いほど倒産の確率は低くなり、負債が多く自己資本比率が低いほど倒産の確率が高くなることになります。

黒字倒産の事例

株式会社アーバン・コーポレイション

「株式会社アーバン・コーポレイション」は、2008年8月に黒字倒産した不動産会社です。

1963年(昭和38年)6月に資本金およそ265.7億円で創業。。2008年3月期の年商は1324.7億円を超え、単体ベースでの経常利益ですら555.5億円を超えていました。2002年(平成14年)に東証1部上場。

しかし、2007年(平成19年)の不動産の金融市場が急速に悪化するなど変調が起こり、2008年にはさらに低迷。それによって金融機関の融資条件が厳しくなり、さらには不動産関連の投資ファンド市場が収縮して増資が受けられないという状況に陥ります。

自社物件の売却などで債務返済のための原資を確保しようと事業転換を図ったものの、売却が上手く進まず、2008年8月13日に東京地裁に対して、民事再生手続き開始の申し立て行いました。倒産時の負債総額は2558.3億円にまで達していました。

江守グループホールディングス

化学薬品商社「江守グループホールディングス」は2015年(平成27年)4月に黒字倒産しました。

1906年(明治39年)に江守薬店という名で創業し、それから徐々に工業薬品や化学薬品などで業容拡大を続け、2006年(平成18年)に東証1部上場。

好調に業績を伸ばしていましたが、一方で中国市場に依存する経営状態になっていたことが、結果的に倒産の引き金の要因といわれています。

1994年(平成6年)11月に事業拡大を狙い上海に事務所を設立し、2年後には現地法人を設立。海外展開により2011年(平成23年)3月期の連結売上高およそ949.3億円、2014年(平成26年)の3月期には2倍以上の売り上げ(連結売上2089.3億円)を計上。

連結当期純利益も、2014年には33.2億円を計上しており、4年連続で過去最高値を更新していました。

しかし中国経済の成長が減速。その影響からか、中国の大口取引先から代金回収が滞り、さらには中国に設立していた子会社の不正取引が明らかとなったことで、信用リスクが増加します。貸倒の462億円が特別損失に、純損失は439.7億円を超えました。

その結果、2014年12月末には234億円を超える債務超過に陥り、手元資金は139億円をわずかに超える程度の状況になり、中国市場から完全撤退して国内事業だけに絞るも、上手く資金が回らずに倒産へと至りました。

まとめ

近年、起業ブームにより新規に開業する方も増えています。しかし起業を行う方の中には、これまで営業を中心に勤めていた方も多く、会計上のお金の流れを正しく把握していないという方も少なくありません。

利益を計上しているのにも関わらず倒産してしまうという「黒字倒産」。このような悲しい状況に陥らないためにも、キャッシュフローの流れも正しく理解しておく必要があります。

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若松 貴英

若松 貴英

保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士(中小企業主資産相談業務)・AFP(日本FP協会認定)/金融業務検定(法務上級)/銀行業務検定(法務2級・財務3級・税務3級)など。銀行勤務時は融資のスペシャリスト」(悪く言えば「融資しか知らない」)として勤務していました。そのため「借入」に対しる知識や経験には自信があります。