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事業再生とは?事業再生ADRとは?企業再生との違いは?

銀行融資   11,247 Views

経営者にとっての究極の目的は「会社を倒産させない」といえるのではないでしょうか。傾いた会社でも適切な方法により再生を図ることも可能です。

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事業再生とは?

事業再生」とはその名の通り、不振に陥っている「事業」を改革し、利益を挙げて再生することを指しています。

たとえば企業が倒産状態となったとき、そのすべての資産を売却したり処分をしてしまうこともあります。しかし売却や処分で、本来まだ可能性や将来性のある事業の価値まで大きく損なわれてしまいます。

事業に再建の見込みや将来的な収益性が見込まれる場合には「事業再建計画」を練り、リスケジュールなどの何らかの対策を施します。その結果、再び収益力・競争力のある事業への再生も可能になります。

つまり、債務を弁済できなくなる懸念のある企業がそのまま倒産を選択することなく、再生を目指すことができるのが事業再生の道です。

企業再生とは?

「事業再生」と同じような概念として「企業再生」というものがあります。これは法人(企業)により着目した表現という意味があります。

実質的には破綻状態にあったり、すでに債務超過の企業に対して何らかの対処を施し、法人であることを維持しながら再生をさせることが「企業再生」です。

倒産状態にある会社の再生というと「事業」を中心にした再構築を指す場合が多いため「事業再生」を意味していることが一般的です。

一方、銀行など金融機関等が債権者の立場にたって再生をする債務者企業の再生の場合、債権回収という意味では企業そのものを再生する必要があります。この場合では「企業再生」を意味しているケースが多いと言えます。

事業再生と企業再生の違いは?

事業再生とは、経営不振に陥っている「事業」を再生させることです。一方、企業再生は、その名の通り「企業」活動を活性化させ、経営悪化に陥っていたり破綻状態にある「企業を再建すること」を意味します。

  • 事業再生→経営悪化にある「事業」の再生
  • 企業再生→経営悪化にある「企業」の再生

事業再生には、赤字状態にある事業の見直し、不採算事業の切り離し、結果の出ている事業のみ存続させるなどの対処策がとられます。

一方、企業再生には、債務超過の状況に応じた法的な整理、大規模なリストラ、M&Aなどを通じて再生を目指す、といった対処策がとられます。

事業再生の種類

事業再生の方法には主に裁判所を通して手続を行う「法的再生」と、裁判外で手続を行う「私的再生」の2種類があります。

①法的再生

民事再生や会社更生、特定調停、破産・特別生産など、裁判を通じて行われます。一般的な法的再生としては「再建型」と呼ばれる民事再生手続や会社更生手続などを用いて再生するケースを指しています。

しかし、破産手続や特別清算手続を用いて再生する「清算型」では、その手続のなかで事業譲渡等をおこない法的効果を得ることができるケースもあります。

裁判所を通した手続のため、透明性や公平性が認められるのが大きな特徴です。また債権者への法的拘束力も示すことができます。

一方「公」になることで取引先からの信用力は著しく低下してしまいます。「倒産」したというマイナスのイメージも長期間払拭できなくなってしまいますので、経済的損失が多額になることもあります。

②私的再生

裁判所が関与せず、個別に債権者と示談や和解の交渉を進め、企業の再生を図ります。債権者と債務者で直接話し合い行いますので、比較的スピーディーに、そして柔軟に合意を進めやすいというメリットがあります。

その反面、透明性や公平性で問題が生じる可能性もあります。

法的再生とは違い、社会的に公にならないため、社会的認知によるマイナスのイメージや経済的損失の心配はありません。私的整理は債権者の数が少数の場合、また債権者との間で信頼関係があり双方の調整がスムーズな場合に用いられるケースが多くなっています。

金融機関などを中心とした債権者が多数いるケースでは私的整理ガイドラインを利用したり、中小企業再生支援協議会を活用する場合もあります。

事業再生までに行うべき5つの必要事項

事業再生は資金がなくなる前に実行しなければいけません。資金が枯渇してしまっては以後の対応が困難になります。スピーディーな判断と対応が必要です。事業再生までに行うべき8つの項目について考えてみましょう。

①実態を把握する

財務・資金・借入金などの会社の実態を把握することがまず第一です。会社が倒産状態になると「倒産してしまう」と気持ちだけが焦りがちです。しかし、再生に向けて前に進むにはまず実態の把握が必要不可欠です。

  • 財務内容はどうなっているのか
  • 資金繰りの見通しはあるのか
  • 金融機関に対する借入金残高と担保状況は

これらの項目を1つ1つ見直しておきましょう。それによりなぜ倒産状態に至ってしまったのかの原因を探り、今後どうすべきなのかを検討する材料とします。

②再生の方針を決める

実態把握による客観的な目線から債務の免除なく再生が可能かどうかの判断をしていきます。金融機関からの借入金の返済期間や金額を見直す、いわゆる「リスケジュール」で資金繰りの改善が可能なのかどうか。

もしくは「リスケジュール」だけでは改善できず、債務免除が必要なのか、債務免除が必要ならどう再生をしていくのか、という方針を決定します。

③再生後の事業計画をつくる

赤字事業の廃止、遊休資産の売却などの改善も踏まえた、収益力のある事業をもとにした再生後の事業計画書を作成します。目安としてはおおよそ3年程度の売上と利益を予測し、推移もまとめます。

事業計画書は債務免除を受ける事業再生手続きや、スポンサーを確保、交渉するために必要な資料となります。非常に重要な資料となりますので、専門家の意見も取り入れしっかりとしたものを作成しましょう。

④必要な資金を確保する

債務免除を受けずに再生をする場合には、新たな資金を確保するために金融機関と交渉をします。金融機関からの新規融資が難しい場合や、債務免除が必要な場合には、リスケジュールの方法をとります。リスケジュールをしても資金繰りがうまくいかないと見込まれる場合には、やむなく取引先などに交渉を行い、支払いの先延ばしなどでの対処も必要になってきます。

⑤スポンサー候補を探す

事業を継続し、再生するためには、資金力と信用力を合わせもつスポンサーの支援が不可欠となります。スポンサーからの資金提供などにより事業再生の足がかりとしていくのです。

事業再生を成功に導く6つのポイント

事業再生を成功に導くにはいくつか抑えておくべきポイントがあります。経営者としてぜひ知っておいてください。

①再生に向けた強い決意と覚悟

事業再生には困難が伴います。しかし経営者があきらめていては話になりません。「絶対に会社を立て直す!」という強い決意と「目標を達成するまで」戦い続ける勇気や覚悟が経営者として必須です

②原因の分析

ただ気持ちだけは先走ってもいけません。どのような原因で資金不足や経営危機に陥ったのか、その原因を冷静に分析しましょう。問題の原因を把握した上で「今後の対策」を立てる必要があります。経営悪化の原因が分かれば、問題を決に役立つ制度(国の借入、負債や事業規模の縮小など)や支援策の道筋もみえてくるでしょう。

③事業再生のスケジュールを立てる

対策などの道筋が見えてきたら、再度、事業再生のスケジュールを立ててみましょう。「いつまでに事業再生が必要なのか」を考え、期間設定をより具体的に検討します。また借入や支援策を受け入れる場合は、どのタイミングで資金が得られるのかも見極める必要があります。

④社内外で情報共有を行う

社内そして、社外の情報も積極的に共有を行います。社員に対してもきちんと説明する義務が経営者には求められます。社外では支援してくれる企業に対して「どのような形で事業再生」をお願いできるのか交渉の機会を多く設けましょう。

⑤今後の事業性についての見極め

これまで行ってきた事業が「今後も継続できるのか」再検討します。「採算の取れない部門」「赤字部門」は縮小・廃止の必要があります。心を鬼にして「リストラ」を進める必要もあるでしょう。変革を行った場合には、どのくらいの確立で生き残れるのかという、より細かい事業計画分析も必要です。

⑥金融機関に対する交渉

資金調達を行い事業再生を進める場合は、各金融機関に事業再生の支援やサポートを求める交渉が必要不可欠です。金融機関への借入金返済が厳しい場合は、現状を説明し、リスケジュールなどの交渉も行うべきです。

事業再生ADRとは?わかりやすく解説

事業再生を図る手段として、事業再生ADR制度があります。

ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、「裁判外紛争解決手続」 の略称で、訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続のことです。

ADRの手続は、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)を根拠法とし、法務大臣の認証を受けた事業者(認証ADR機関) がその手続を実施します。

「事業再生ADR」は、ADR手続の一種です。平成19年度産業活力再生特別措置法(産活法)の改正により創設され、平成25年度産業競争力強化法第51条乃至第60条により引き継がれた制度です経済産業臣の認定を受けた第三者により、法的整理手続きを介さず「事業再生できる」よう支援が行われます。

事業再生ADRの特徴

①債権者が債権の無税償却ができる

純粋な私的整理において金融機関が債権放棄をするには、個別の案件ごとに税務当局に損金になるかどうかの判断を受けなくてはいけません。しかし事業再生ADRに基づいて債権放棄などがされた場合には、税務当局から合理的に債権放棄がなされたと推定され、税務上損金算入が認められて、債権者は債権の無税償却ができます。

②事業を継続しながら話し合いを進めることができる

事業再生ADRは、金融機関等だけを相手として話し合いを進める手続であり、通常の私的再生手続と同様に、本業をそのまま継続しながら、金融機関等との話し合いで解決策を探ることができます。

③事業に必要な資金を調達できる

事業再生ADRを利用すれば、つなぎ資金の融資は、それ以前の古い債務とは別に優先的な取り扱いをする道が開かれ、メインバンク等も資金を提供しやすくなります。

④法的再生と同水準かそれ以上の再生が図れること

経済産業臣の認定を受けた第三者、つまり法的再生を担う実務家と同レベルでの監督の下で進められる手続であり、法的再生と同水準かそれ以上の再生が期待できます。

⑤法的再生手続を申立てる可能性があること

意見がまとまらないときは、裁判所を利用した法的再生手続に移行することもあります。ただしこの場合もADRの結果を踏まえた手続きが期待できます。

事業再生ADR制度は、私的再生のデメリット「手続きの不安定性」と法的再生のデメリット「事業価値の棄損」を避けるために設けられています。事実大手企業での以下のような先が事業再生ADR制度のサポートを受けてきました。

  • アイフル株式会社
  • 株式会社アルデプロ
  • 株式会社コスモスイニシア
  • 株式会社さいか屋
  • 株式会社新日本建物
  • 株式会社日本エスコン
  • 株式会社日本航空
  • 株式会社マルマエ
  • 株式会社御園座
  • 株式会社明豊エンタープライズ
  • 株式会社ユアーズ、株式会社丸和
  • 大和システム株式会社
  • 日本インター株式会社
  • 日本アジア投資株式会社
  • ラディアホールディングス株式会社
  • ワールド・ロジ株式会社

国内を代表する大手企業も事業再生ADRで支援を受け、再建を果たしています。

まとめ

事業再生までの道のりは長く、困難なものです。しかし「必ず再生する」という強い意思を持っておくことが大切です。経営者として「これまでの責任を果たす」という気持ちで臨めば再生は決して夢物語ではありません。

再生手段も様々な方法があります。時には弁護士などの専門家の意見も取り入れる必要もあります。自社・事業にとって最適な再生方法は必ず見つかります。なにしろあきらめない気持ちで再生に取り組む姿勢が大切ではないでしょうか。

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ライター紹介 ライター一覧

若松 貴英

若松 貴英

保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士(中小企業主資産相談業務)・AFP(日本FP協会認定)/金融業務検定(法務上級)/銀行業務検定(法務2級・財務3級・税務3級)など。銀行勤務時は融資のスペシャリスト」(悪く言えば「融資しか知らない」)として勤務していました。そのため「借入」に対しる知識や経験には自信があります。